<「菊地成孔+BOSS THE NK+OD+小田朋美」③>
「とにかく、小田さんに迷惑かけたくないんですけど、似てるんだからしょうがないよねえ(笑)」
「あのう、何度も何度もすみません。この子がしてるんじゃなくて、あたしがしている、という事になるんですか?」
「そこがご相談で(笑)」
ご相談と言っても、菊地くんは小田さんに話を飲んでもらうしかない。「ODがもし、小田さんじゃなくて千住くんに似てたら、千住くんが女装してる事になって凄えややこしいだろ(笑)。完全な新顔でも良かった、、、、っていうか、そうだとばかり思ってたけど(笑)、却って面白れえよ」と言って、菊地くんはこの大変なアクロバットが、カスタマーにどう見えるか、という博打、のそれ以前に、そもそも賭場が立つのかどうか、二重の大博打の前にハイになっていた。私はODに毛布をかけてから、少し離れたソファに座り、二人の会話の録音を始めた。
「とにかく、一切のご迷惑はかけません。あんまり好き言葉じゃないですけど、よく言いますよね、見え方、とか、見せ方、とかさ(笑)。小田さんにもパブリックイメージあるもんね」
「いや、まあ、そんな大仰なものでは、、、」
「でも、この子、身長もハイヒール履いたら僕を越すし」
「そこ、嫌なところじゃないんですか?(笑)」
「全然(笑)、そうじゃなくて(笑)、身長もあるし細いし、手足長いから、分かりやすくハイモードにしちゃうんで、比較的大胆なルックになるときもありますけど」
「胸出しちゃうとか?」
「いやいや胸は出さない(笑)。テレビ出れないでしょ(笑)」
「それ言ったら刺青もダメなんじゃないですか?地上波なら」
「あそうだ!(笑)手袋しますよ左手だけ(笑)」
「取り敢えずそこはオーケーです(笑)」
「了解です(笑)。デビューが夏場で、夏フェス決めたいんで、そうですね、スイムウエアに長襦袢にハイヒールでフジロックに出ます。ファレルのハッピーの、後ろにいるモデルみたいな(笑)」
「ううううう(笑)。あの、そのスタイリング自体は素敵だと思うんですけど、、、、、しつこい様ですけど、永遠に、あたしなんですよね?行く行くは種明かし、みたいな事はなく」
「どちらが良いですか?」
「いや、あの、全然。ある時、二人出てきたら凄くないですか?モノマネの、ご本人登場みたいな。この場合、、、、、どっちが本人なんだか分かりませんけど」
「すげえ事言うなあ(笑)」
「とにかく、あたしは何も考えないで、普通に自分の活動してて良いんですよね?」
「はい」
「分かりました。だったら菊地さんにお任せします」「うわー簡単に決まった(笑)緊張して損しちゃったな(笑)」
「菊地さん、ただ、一つだけお願いが」
「ありゃあ、気が合いますね(笑)。こっちも一つあるんですよ(笑)」
「(笑)契約書とか書きます?」
「いやいやいや。乃木坂ぐらい売れたらにしましょう、書き物はおっかねえから(笑)。つまり一生書かないけど(笑)。あ、すみませんお願いというのは?」
「楽曲は、お二人で書くんですよね?」
「それは書く(笑)。こいつ、なんでもできるんで」
「そしたら、全曲チェックさせてください」
「喜んで(笑)。ダメなところがあったら書き直してください(笑)」
「喜んで(笑)」
「有難うございます(笑)」
「で、あたしにお願いっていうのは、、、、」
「あのう、、、ですね、、、、」
「はい、、、」
「あいつをここに住ませてやって欲しいんです」
「ええええええ!!?」
「週に1回は川崎のパン工場に帰しますんで、、、、できたらそのう、、、、週5で(笑)」
「ちょっと、、、、うううううそれは。長考に入っていいですか?(笑)」
「勿論です。では、仮契約成立という事で(笑)」
「菊地さんほんと楽しそうですね(笑)」
「だってヤバくないですか?(笑)4人で2役、、、、あれ違うか?」
「そうですよ!さっきのお話だったら。だって私でしょう?菊地さんでしょう?ボスさんでしょう?彼女でしょう?それで、外向けには、菊地さんとあたしがやってるのに、、、、」
「別人だって言い張ってる、という態だから、、、」
「だから、都合4役ですよ。4人4役っていうか、、、、あれ、違うか?」
「そうだそうだ!変形した4人4役ですよね!中身が違うだけで!うははははははは」
「入れ替わりやりたいですね(笑)入れ替わっても分からないけど(笑)」
「小田さん面白いなあ(笑)」
「結局全員、誰だかわかんなくなっちゃったりして(笑)良いなあそういうの」
「良くないでしょう(笑)」
私は立ち上がり、ODを起こそうとした。すると小田さんが、「あ、ボスさん」と私を制した。
「大丈夫です。今日から半同棲しますね(笑)。ODと(笑)」
* * * * *
マネージに関する話を済ませ、川崎の工場から届けられた、5日分のパンを小田さんに託して、私と菊地くんはODを残し、小田さんの部屋から出た。菊地くんは競歩のような速度で歩きながら「よっしゃあ始まった。ヤベえの始まった(笑)」と言って、特殊メイクのように目を血走らせていた。
「大丈夫か?小田さんとの会話は、一応録音しておいたが」
「嫌だねえ請負屋は(笑)」
「ODと一緒に長期間過ごしたのは、今のところ、工場の人達だけ、と考えるのが妥当だろ?」
「え何?あいつ夜中に遠吠えしたりするの?(笑)」「可能性はゼロじゃない(笑)」
「そうだな、もしトラブルがあったら、君が預かってくれ」
「マジで?」
「マジで、とか言うんだな(笑)」
「たまにね(笑)。まあわかった。その場合は湾岸の倉庫に二人で移る」
「あの、ディーバに出てきた隠れ家みたいなとこな。ローラースケート買わねえとな」
「それにしてもちょっとハイ過ぎないか?」
「そっりゃそうだよ。ハイこれ、さっき長沼から」
菊地くんは印籠のように、歩きながらガラケーをかざした。そこには、彼のマネージャーからのメールで
<伊勢丹からキャンペーンソングの依頼が来ています。今年の5月との事ですが、間に合いますでしょうか?>
とあった。
「これじゃあハイになっても仕方ないな(笑)」
「だろ?(笑)どんな賭場でも、立ててねえ限りツキ自体が来ねえ。あいつ持ってるよ。今、パン食ってるか寝てるか?いくら賭ける?」
「パンに5万」
「寝たままパン食ってるに10万だ(笑)」
彼は歩きながら電話をかけ、あもしもし~小田さ~ん。お疲れ様です菊地です~。あっ、先ほどはどうも。あいつ今何してます?と言った。
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